精神的に強くなりますか?

ある日のグラバカ東村山ジム。

体験入会の小学生がお母さんに連れられてやって来た。

その男の子は最近お母さんに「強くなりたい。」と言うそうだ。

その子はニコニコしていて優しそうな子でクラス中も礼儀正しくしっかり受けていて理解力も高く好感が持てた。

お母さんは「うちの子でもできるでしょうか?」と少し心配そうな顔で質問してきたので、自分は「理解力も高そうだし問題なく上達できると思いますよ。」、「中学生になる頃には普通の成人男性にも勝てるようになるかもしれませんよ。」と伝えた。

少し安心した感じのお母さんは「格闘技や武道をやると精神的に強くなりますか?」と質問してきた。

「勿論です!」と答えるのがジムの経営的には正解なんだろうけど、自分はそうは答えなかった。

「スポーツの有名選手や強豪校の部活やプロチームが不祥事を起こしたりするので余り精神的な強さと格闘技や武道やスポーツは関係ないかもしれませんね。」と答えた。

お母さんは相槌を打ちながら聞いていた。

この親子さんが入会したかどうかは御想像にお任せしますが、今でもこの答えが経営的な意味ではなく論理的に正しかったのか考えてしまう。

多分、自分は普通の人よりも耐える精神力が強いと思う。苦行とか多分わりと大丈夫なタイプで減量がっつりやってる時は勿論本職の生理学の知識を活かして結構緻密に計算していたけど、いつか耐え過ぎて身体から送られている「ヤバいよ。」のシグナルに気付かずに事故るんじゃないかと思って我ながら冷や冷やしていた。

試合前はオムロンの当時1番高価だった体脂肪率が5%以下はエラーが出る体重計でいつもエラーが出ていて、壊れているのかと思ってオムロンのカスタマーセンターに電話したこともある。

毎日フルタイムでリハビリの仕事をした後、柔術の指導をして、自分の練習をして終電で家に帰り夜中に更に一人稽古や補強をしていた。

減量で食事量が少ないからか睡眠時間は短くても大丈夫だった。昼休みはプロテインしか飲まないのでほぼ丸々リハビリ室のデスクで昼寝していたけど。

暖房を最強にしてHOT柔術にしてスパーリングを休みなしで2時間連続でやったりしていた。

休みの日は2〜3部練していて1年のうち360日は荒井さんと取っ組みあっていた。後の5日は試合前の減量最終日の体重調整か海外に試合に行く飛行機の中。

塩谷さんとも沢山練習してもらったが、自営業なのと遊び人だからもう少し日数は少なかった(笑)

では、自分が精神的に強いかと言われると『どうかな?』と思う。その手の苦痛に対して鈍いだけな気がする。渡辺淳一言う所の鈍感力みたいな感じ。

仮に精神的に強いとしてもそれは格闘技や武道で培われたものなのか生来の特性なのかは自分でもわからない。

自分の周りのジムの人間達に限って言えば、精神的に強い(ある種のストイック?)人間は入会当初から強い気がする。

赤羽の塩谷さんとか、荒井さんは入会した白帯の時点から技術とか強さとは違う『何か』を持っていたと思う。

結果、『稽古仲間』という謎の認定を受けて数年間の間茨の道を歩くことになったけど。

でもその『何か』もどちらかと言うと『耐える力』の類でお母さんの言っていた『精神的な強さ』とは違うかもしれない。

自分が競技人口でも競技力の高さでも日本武道の頂点だと思っている剣道の全日本王者で世界選手権でも団体優勝している当時警察官の選手が不祥事を起こしたこともある。

剣道の全日本王者は『耐える力』も試合に挑む『精神力』もとんでもなく強いだろうが所謂普遍的な劣情には勝てなかった。

「精神的に強くなりますか?」は自分にはかなり難しい質問だ。

こんな色々なことが頭を駆け巡って瞬間的に答えたのがさっきの答え。ま〜、咄嗟にしては及第点かな。

少なくとも自分よりは『まとも』な堀君と荒井君。

この日も皆んなが帰ってからも最後までスパーリングを一緒に回しました。

土曜日の修斗杯こういう奴等に勝ってほしい。横山拓也

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